太宰治 Dazai Osamu
1909–1948。11作品を対訳で読めます。
- 1938満願The Fulfilled Vow三島の医者の家に出入りしていた頃の、二千字に満たない挿話。病み上がりの夫に禁じられていたことが、ある夏の朝に解ける。何が起きたかは書かれない。
- 1939畜犬談On Dogs私は犬に就いては自信がある、いつか噛まれるという自信である。犬を恐れる男が、甲府で一匹の汚い犬に居つかれる。捨てようとして捨てられず、殺そうとして殺せない。副題は「伊藤氏に与う」。
- 1939葉桜と魔笛Leaf Cherries and the Devil's Whistle老いた語り手が、三十五年前の妹の死の前後を振り返る。妹あての恋文の束を見つけた姉が、その後にしたこと。葉桜の頃に聞こえた口笛を、いまも神様のしわざだと思っている。
- 1939女生徒Schoolgirlある少女の、朝目が覚めてから夜眠るまでの一日。眼鏡が嫌い、母が好き、自分が嫌い、と気分は数行ごとに裏返る。太宰が読者の日記をもとに書いた、女性一人称の代表作。
- 1939富嶽百景One Hundred Views of Mount Fuji御坂峠の茶屋にこもった数か月の記録。あつらえたような富士の眺めを俗だと言いながら、雪を見れば手のひらを返し、見合いの席では長押に掛かった富士の写真に助けられる。月見草、遊女の一団、あくびをした花嫁。太宰が生き直そうとした時期の、明るさの見える一篇。
- 1940駈込み訴えA Direct Appeal師を売った男が、役所に駈け込んで一息に喋り倒す。憎いと言い、愛していると言い、また憎いと言う。原文は三段落しかない一続きの独白で、最後の一行まで語り手の名は伏せられている。太宰が口述筆記でほぼ一日で書き上げたと伝わる短編。
- 1940走れメロスRun, Melos!暴君に処刑を言い渡された牧人メロスは、妹の結婚式を挙げるため三日の猶予を願い、無二の友セリヌンティウスを人質に残して村へ走る。濁流と山賊と自らの弱さを越え、日没までに友のもとへ帰り着けるか。信実をめぐる短編。
- 1941東京八景Eight Views of Tokyo伊豆の宿にこもり、東京で過ごした十年を土地の記憶として書き直す。戸塚、本所、天沼、荻窪。「これは、私の東京八景である」と言いながら、書かれているのは風景ではなく、そこで会った人たちの顔である。
- 1947ヴィヨンの妻Villon's Wife飲んだくれの詩人の夫が、小料理屋から金を盗んで帰ってくる。妻は店に詫びに行き、そのまま働きはじめる。夫の破滅を語るのではなく、妻の側から見た暮らしとして書かれた戦後の短編。
- 1948人間失格No Longer Human全6章恥の多い生涯を送って来ました。裕福な家に生まれながら人間の生活が分からず、道化で人とつながろうとした男・大庭葉蔵の三冊の手記と、それを託された語り手の序とあとがき。太宰治の最後の完成した長編で、没後の1948年に刊行された。
- 1948桜桃Cherries子供より親が大事、と思いたい——そう書き出される、ある家庭の一日。三人の子を抱えた夫婦の、荒らげた声ひとつ立たない喧嘩。妻の言った「涙の谷」の一言が導火線になる。太宰が死の年に発表した短編で、命日「桜桃忌」の名の由来。